語り得ぬものを語る

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【Book】豊饒の海(三島由紀夫)

三島由紀夫豊饒の海を読了した。全4巻の大作で、三島由紀夫の最大かつ最後の作品。難しい部分も多いが、三島の華麗な文体と豊かな語彙に加え、生と死、美と醜の絶妙なコントラストが味わえる作品。特に最後の大どんでん返しの驚きは、最後まで読むことでしか味わえない感覚だ。

読みやすさ☆☆★★★
おもしろさ☆☆☆☆★

●あらすじ
輪廻転生をテーマにした作品で、各巻で登場人物が生まれ変わる。生まれ変わる人には、脇腹に3つのホクロがあり、それが目印になっているという変わった特徴がある。

「春の雪」は華族に生まれた松枝清顕と綾倉聡子の報われぬ恋愛を描いた物語。綾子が子供を堕し出家するという悲劇的な終わり方をする。

豊饒の海 1 春の雪 (新潮文庫) [ 三島 由紀夫 ]

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感想(1件)


奔馬」は飯沼勲という血気盛んな若者が叛乱を起こす話。思想的に偏った決起集団で、読んでいて感情移入がしにくかった。結局、最後は切腹自殺をするところが、三島作品らしい。

豊饒の海 2 奔馬 (新潮文庫 みー3-22 新潮文庫) [ 三島 由紀夫 ]

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感想(15件)


暁の寺」では、タイの姫君であるジン・ジャンが生まれ変わりの人物。輪廻転生の実相に一番迫っているのはこの巻なのだが、阿頼耶識など普通に馴染みのない言葉が多く思想的に難解。

豊饒の海 3 暁の寺 (新潮文庫 みー3-23 新潮文庫) [ 三島 由紀夫 ]

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感想(13件)


最終巻の「天人五衰」は打って変わって読みやすいのだが、この巻だけ異質だ。安永透という人物が生まれ変わりと思いきや、実は偽者であるとわかり、最終的に1巻目の「春の雪」に出ていた綾倉聡子が尼僧として現れ、衝撃の結末を迎える。

豊饒の海 4 天人五衰 (新潮文庫 みー3-24 新潮文庫) [ 三島 由紀夫 ]

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感想(15件)


●最後に
実際、これだけの大作なので、読むのは一苦労なのだが、読了後の感動は凄まじいものがある。三島自身が、これ以上の小説を書くことは出来ない、と言い残して、市ヶ谷駐屯地での割腹自殺を遂げたわけだから、事実上の遺書といってもよい。

三島は本当に謎多き作家だが、最後のどんでん返しで、彼の抱えていた死生観・無常感のようなものを推察できるし、作品名の「豊饒の海」というのは痛烈な皮肉で、実は「月の海」のように枯れ果てた窪みを意図しているというのが理解できる。